IT指標とKPI
IT戦略計画プロセスにおいて必須となるトップ10のITメトリクスとKPI
IT指標/メトリクスとは
IT指標は数値化できる測定基準です。ITリーダーがIT業務を効率的に管理する上で役立ちます。従来は運用に関する指標が多かったですが、現在のIT指標には、IT投資をビジネス戦略、顧客体験、クラウド最適化に一致させる効果もあります。IT指標は、CIOがテクノロジーの価値を判断し、ITパフォーマンスの信頼性を構築する上でも役立ちます。
CIOは、ITがもたらす価値についての対話を主導し、ITの影響力と戦略的な役割を向上させることができます。パフォーマンスを測定して判断材料として使用し、ステイクホルダーとの関係を改善して、ITから新たな価値を引き出すことができます。指標を明らかにすることによってステイクホルダーとの関係構築が補完され、ITリーダーと事業部門幹部の関係は、戦略的なパートナーシップへと進化します。
George Westerman, Research Scientist, MIT Sloan Center for Information Systems Research
ITリーダーは、IT指標の定義、測定、レビューを通じて、テクノロジーがビジネスにもたらす価値を伝えるための対話の基盤を築くことができます。こうした対話を促進するために、TBM Council(CIOによるIT部門経営の支援に特化した非営利組織)は、IT投資、パフォーマンス、デリバリーを評価するための各種指標を確立しました。
- CIOオフィス
- ITファイナンス
- インフラ・運用管理
- アプリケーションとサービス
- ビジネスリレーションシップマネージャー
「IT部門は、ビジネスの成長とイノベーションを支援するために、適切な額の投資を行っているか?」 この質問に答えるために、CIOは、IT総コストのうち、ビジネス維持のためのランニングコスト、現行のビジネス拡大を支えるプロジェクト支出、新たなプロダクトや新たな市場に合わせたビジネス変革イニシアチブへの戦略的支出の割合を計算し、追跡する指標を用います。CIOは、これらのカテゴリーに分類される変動/裁量支出の割合もチェックします。
「IT部門は、ビジネス需要、戦略、市場の変化に迅速に対応するための財務的なアジリティを備えているか?」 ITファイナンスアナリストは、この質問に答えるために、IT総コストに対する変動支出の割合を確認します。その結果、コストとビジネス需要の整合性を高めるために、固定資産と変動リソースのバランスをどこで取るべきかがわかります。「ITコスト構造が固定費に偏っていないか?」 「オンデマンドかつ変動型のベンダーリソースや外注サービス(クラウドなど)を利用できるのはどの部分か?」
「どの領域でコスト最適化が期待できるか、そしてその浮いた資金を技術負債にあてる、ビジネスが求める新たな機能に再投資することができるか?」 インフラ&運用管理リーダーは、最適化が期待できる領域を絞り込むために、データセンター、コンピューティング、ストレージ、ネットワーク容量に関連する使用量と総コストを常に把握する必要があります。総コストを使用量で割って単価を計算し、その単価効率を評価し、ベンチマークや代替サプライヤーと比較できます。
IT投資と優先順位は、ビジネスの方向性に合致しているか? 重複しているものや利用率の低いものはどれか? 廃止すべきアプリケーションはどれか? こうした質問に答えるには、アプリケーションのランニングコストと構築コストをすべて含めたポートフォリオ投資の比較表を作成することです。この指標により、インフラアプリケーションおよびサービス、ビジネス機能、外部の顧客対応サービス(あらゆるハードウェアやソフトウェア、人材、外部サービスを含む)の総コストを確認できます。さらに、支出額を使用量で割って単価を計算すれば、複数の代替リソースの相対的な効率を明らかにすることができます。
「前年に比べてITコストを削減するために、利用部門に自らの消費行動とITコストとの関係を理解させるには、どのような支援を行うべきか?」 ビジネスリレーションシップマネージャーがこの質問に答えるには、各利用部門のITコストを把握し、サービスごとに分解することが必要です。この指標では、使用量とそれに伴う単価がわかります。
IT指標はどのように追跡するか
データは、IT指標を把握し追跡するための根幹であり、あらゆるプログラムの土台となるものです。優れた指標を使用するには、適切なソースを特定し、適切なソースデータカラムを統合し、フォーマットを一致させる必要があります。
どのデータが必要か
多くのITチームは、組織のさまざまな担当領域から得られるデータソースのうち、3-5種類からスタートします。以下は各分野のデータソースの一例です:
- 財務: 総勘定元帳、固定資産台帳、勘定科目一覧、予算
- テクノロジー: サーバー、ネットワーク、クラウドプロバイダー、ストレージ、CMDB
- ポートフォリオ: アプリケーション、プロジェクト、人件費、ベンダー
- サービス: チケット、サービスカタログ
コストをどのようにカタログ化するか
タクソノミーを活用すれば、企業データとITコストを整合させることができます。そのために、Apptio TBM Unified Model™(ATUM™)では、TBM Councilが公認した業界標準のタクソノミーを使用しています。ATUMは、ITリーダーがテクノロジー事業を管理するためのコストモデルを標準化します。
ATUMのタクソノミーでは、ITとビジネス/財務用語を一致させて共通言語化し、マッピングルールに従ってコスト分類を自動化します。カテゴリーは、必要に応じてカスタマイズまたは拡張が可能です。また、あらかじめ定義された割当てルール(コストを消費情報に割り当て、運用データで重み付けするルール)でコストをルーティングする標準モデルも指定します。
さまざまなデータソースからコストを計算し、標準カテゴリーに分類し、指標に割り当てます。CIOは、ダッシュボードで指標を測定して一目で管理できます。ITリーダーとビジネスリーダーは、ダッシュボードを利用して、コストとパフォーマンスを週単位または1日単位で管理するために、必要となる指標データの取得と分析を効率的に自動化できます。
ダッシュボードは、状況の変化に合わせて進化できるようなデザインが理想的です。進化する指標とは、例えば次のようなものです。
例えば、IT部門は、最初の段階では、予定どおりにスタートしたプロジェクトの割合を確認できるスナップショットを取得するだけで十分だとします。この指標は、非常に基本的な「はい/いいえ」のデータポイントを収集するように構築されています。次のステップでは、予定どおりに完了したプロジェクトの割合を把握することです。このステップから、予定どおりに完了したプロジェクトの割合だけでなく、予算の範囲内で完了し、予定していたデリバリー範囲を満たしたプロジェクト割合を示す指標につながります。
ApptioOneで提供されているApptioのCIOダッシュボードでは、TBM Councilにより公認され、大手企業のCIOや業界アナリストによって十分に精査された指標管理に対応した標準セットを用いています。このビューでは、利用部門、アプリケーション、インフラ、財務差異、パブリッククラウド別に、主要コスト指標の概要を経営幹部が必要なレベルで表示します。
IT指標はいつ使用するのか
IT指標は、IT部門の意思決定者が指標に注目したときに、初めて効果を発揮します。さまざまなオーディエンスやITパフォーマンスの側面について、IT指標の定期レビューを実施することが重要です。こうした定期レビューにより、チームは関連するインサイトを引き出し、適切なタイミングで適切に対処できます。
月1回のリーダーシップレビュー
CIOは、直属の部下から月1回情報を収集し、組織のパフォーマンスをレビューすることでメリットが得られます。このIT部門内での情報更新により、全員の認識を一致させることができます。議題としては、この1か月にITで発生した事象、各種KPIの傾向、対処が必要かどうかの判断などが考えられます。また、予算と実コストの差異状況や、支出予想に対する今後の影響なども含まれるでしょう。(Apptioは、この会議を行うベストプラクティスアプローチである「IT Leadership TBM Review」(ITLTR)を有しています。)
四半期毎のビジネスレビュー
四半期毎に、CIOとビジネスリレーションシップマネージャーは、ITサービスを利用している利用部門のパートナーとのレビューを実施します。このIT部門外との対話により、チーム間のすり合わせを促進できます。議題としては、IT部門が利用部門に提供する価値、利用部門の選択がITコストにどのように影響するか、将来のビジネス戦略に合わせてIT投資を調整すべき部分がどこか、に重点を置くものになります。こうしたレビューは、透明性を得るために不可欠です。ステイクホルダーとの信頼を築き、IT部門がテクノロジーを活用したビジネス戦略推進をするために望ましいパートナーとみなされるようになります。
年1回のプランニングプロセス
各年度の後期に入ると、ほとんどの利用部門は戦略的なプランニングプロセスを実施し、翌年の目標、戦略、戦術、投資内容を定めます。このプロセスにはIT指標が不可欠です。なぜなら、IT指標によって、IT部門の意思決定者は今年度の計画をどのようにして実現するかを把握でき、次年度に向けた計画調整のベースを得られるからです。この情報により、ITリーダーは戦略的なオプションの重み付けを行い、自信を持って的確な投資判断を下すことができます。
追跡すべきIT指標とKPIはどれか
ITコスト、パフォーマンス、出力を測定するための指標は、数千種類にも及びます。ただし、重要なのは量より質です。実際、指標が多すぎるとそれだけで圧倒されてしまい、生産的ではありません。そうではなく、トップダウンアプローチで指標を開発すれば、ITリーダーは重要なビジネス判断材料となるデータに集中できます。必須な情報に照準を合わせると、ITチームは特定の成果に対する影響を把握し、コミュニケーションしやすくなります。ApptioがCIOを対象に実施した調査において、ITをビジネスとして運営するための最適な指標の優先順位を尋ねたところ、次のようなカテゴリーが得られました。
基本的な財務指標
財務指標は、ITリーダーがテクノロジー支出/投資を追跡する際に有用であり、ITビジネス管理に不可欠です。各部署の財務健全性に貢献し、コスト削減、リソース割り当ての改善、説明責任の向上を達成するための手段を明らかにします。
- 1. IT予実状況の管理
- 2. アプリケーションとサービスの総コスト
- 3. ITコストのうちのクラウド比率
指標1: ITのコストと計画(OpExとCapExの両予算に対応)
この指標から得られる知見:
- 想定していた支出額を実際に支出しているか?
- 計画を上回った、あるいは下回った支出分野は何か?
活用方法:
- 手遅れになる前に想定外の項目を見つけ是正する
- IT組織内に説明責任の文化を根付かせる
頻度:
- 月次+四半期
例:
ITコストと計画を照らし合わせることは、年間を通じて予算状況を管理し、手遅れになる前に想定外の支出を是正する、重要な作業です。
例えば、A社では、社外コンサルタントがプロジェクトの完了に予想以上に時間がかかっており、割り当てられていた額を上回る予算を消費しています。この場合、月次レビュー管理を導入することで、CIOとIT財務チームは予実差異を察知して原因を特定し、手遅れになる前に問題を解決できます。さらに、ITチームが年度予測を立てる際に、この指標を使用してシナリオを分析し、一部のイニシアチブやプロジェクトを延期したり、優先順位を変更して調整することで、年間予算内に支出を収めることができます。
指標2: アプリケーションとサービスの総コスト
この指標から得られる知見:
- 想定していた支出額を実際に支出しているか?
- 計画を上回った、あるいは下回った支出分野は何か?
活用方法:
- 手遅れになる前に想定外の項目を見つけ是正する
- IT組織内に説明責任の文化を根付かせる
頻度:
- 月次+四半期
例:
ITコストと計画を照らし合わせることは、年間を通じて予算状況を管理し、手遅れになる前に想定外の支出を是正する、重要な作業です。
例えば、A社では、社外コンサルタントがプロジェクトの完了に予想以上に時間がかかっており、割り当てられていた額を上回る予算を消費しています。この場合、月次レビュー管理を導入することで、CIOとIT財務チームは予実差異を察知して原因を特定し、手遅れになる前に問題を解決できます。さらに、ITチームが年度予測を立てる際に、この指標を使用してシナリオを分析し、一部のイニシアチブやプロジェクトを延期したり、優先順位を変更して調整することで、年間予算内に支出を収めることができます。
指標3: ITコストのうちのクラウド比率
この指標から得られる知見:
- クラウドファーストの目標を満たしているか?
- クラウド支出の増加とオンプレミスITの削減は合っているか?
活用方法:
- クラウド移行を優先付けする
- 迅速なマイグレーションメリットを検証し、クラウドファースト戦略のビジネスケースを立証する
頻度:
- 月次+四半期
例:
A社は自社のクラウドファースト戦略を検証したいと考えています。同社にはオンプレミスのITフットプリントがかなりあります。多くのレガシーアプリケーションについて、再設計、再プラットフォーム化、再購入が必要です。ITオペレーションは、開発作業の優先順位付けとコスト計算を行っています。それでも、テクノロジーリーダーは、経営陣や他のビジネスリーダーが理解できる財務指標を用いて、クラウド採用による成果を説明できる必要があります。
ITコストのクラウド比率を管理することで、テクノロジーリーダーは、時間経過に伴うマイグレーションや廃止に耐えるインフラやアプリケーションを特定することができます。
デリバリー指標
デリバリー指標は、プロジェクト実行の効果と、ビジネス向けサービスの継続的な提供を追跡します。これには、満足度調査、予算および完了の測定に加え、人材とリソースの調達戦略に影響するデータが含まれます。
- 4. プロダクトリードタイム
- 5. ポートフォリオから得られる四半期毎のビジネス価値
指標4: プロダクトリードタイム
この指標から得られる知見:
- 特定のプロダクトや機能について、最初のリクエストから提供までにどれぐらい時間がかかるか?
活用方法:
- 提供できる能力を予測する(コスト削減または収益創出)
- プロダクトによる価値を期待する人に対して、その期待を設定し、管理する。
頻度:
- プログラムインクリメント(PI)
活用のためのヒント:
組織は市場投入スピードを加速させ、顧客需要に応え、生産性を向上させるために、アジャイル手法を採用していますが、アジャイル採用だけではその成果を生み出せません。これらを実現するには、成功を測定するための指標も組み合わせる必要があります。アジャイル指標は、ソフトウェア開発ライフサイクル全体の生産性を監視しますが、プロダクトポートフォリオは最終的に、プロダクトの要求から実際の納品までの時間で判断されます。IT戦略計画では、プロダクトリードタイムに関して継続的に見直しをする必要があります。
指標5: ポートフォリオから得られる四半期毎のビジネス価値
この指標から得られる知見:
- ビジネス価値に関する予測はどの程度正確か?
- 予測向上に向けて再配分すべきリソースはどれか?
活用方法:
- 得られるビジネス価値に関する正確な試算を示し、プロダクトマネージャーとビジネスの間での信頼を構築する
- 手に負えなくなる前に価値の低下を特定して是正する
頻度:
- 月次+四半期
活用のためのヒント:
もたらされるビジネス価値の算出が不正確では、アジャイルチームがビジネスの期待に応えることはできません。プロダクトマネージャーは、その精度を高め、チームの生産時間を超過してしまう場合はリソース制限をかけるため、四半期毎のポートフォリオから得られるビジネス価値のトレンドラインが必要です。ビジネス価値の結果を測定および監視することで、プロダクトマネージャーは納品のコミットメントを果たすことができます。四半期毎にポートフォリオから得られるビジネス価値をリーダーが確認できない場合、IT戦略計画はリスクにさらされます。
イノベーション&アジリティに関する指標
イノベーション&アジリティの指標は、ビジネス変化または変革に必要な投資優先順位を設定し、重要な投資領域を促進することを目的としています。ビジネス変革に重点を置いているITコスト、プロジェクト投資、クラウドなどの新機能へのテクノロジー投資をポートフォリオ別に確認できます。
- 6. 目的別: ランニング、成長、変革のIT投資比率
- 7. 顧客戦略イニシアチブに対するプロジェクト支出の割合
指標6: ビジネスの維持、成長、変革にかかるIT投資の比率
この指標から得られる知見:
- 現状運用維持と成長イニシアチブを比較した場合、IT予算の優先度が高いのはどちらか?
- 技術革新に十分に投資しているか?
活用方法:
- 支出を「運用」から「成長」、「変革」の投資へとシフトする
- ITコストを戦略的なビジネスの優先事項に合わせる
頻度:
- 月次+四半期
例:
この指標は、ITコストのバランスを明確化できるという、経営幹部にとって画期的なデータです。まったく異なる3つの会社を考えてみましょう。A社では、ITは戦略的に重要な役割にはなっていません。IT予算の約85%は「現状維持」に回され、組織の成長に投じられる予算は15%に過ぎません。B社では、予算の60%を事業運営に、40%を事業成長につながるイニシアチブに投資しています。最後のC社は、IT予算の50%を事業運営に、30%をビジネスの成長に、残りの20%をビジネス変革に投資しています。
IT投資の割合を示す指標により、各社のビジネスゴールに対する投資の姿勢が明らかになり、必要に応じて方針転換の際のベンチマークを得ることができます。
指標7: 顧客向けのイニシアチブに対するプロジェクト支出比率
この指標から得られる知見:
- ビジネスに影響をもたらすプロジェクトに十分に投資しているか?
- 顧客体験の優先度を十分に高く設定しているか?
活用方法:
- ITが、その会社の顧客に適切な影響を与えられるようにする
- 社内向けプロジェクトを探し出し、できるだけ減らすようにする
頻度:
- 月次+四半期
例:
X社では、取締役や経営幹部から「顧客がもっと当社と取引しやすいようにしたい」という声が頻繁に出ています。これを受けてCEOは、同社の顧客にとっての障壁を解消するためのアプリケーションやテクノロジーを特定するように利用部門に依頼しました。
ITリーダーは、分析アプローチにより、プロジェクトフォーカスを示し、支出ギャップを強調することができます。こうした指標を使用することで、顧客体験の改善のためにどのテクノロジーが適用され、どのビジネスゴールを満たしているかが明らかになります。このデータに基づいて、CIOは優先順位を管理し、バックオフィスの支出とフロントオフィス/顧客向けの支出のバランスを見極めて、利用部門にフィードバックを報告します。
ビジネスバリューに関する指標
ビジネス価値の指標を使用することで、CIOはテクノロジー投資がビジネスにどのように貢献したか(または、していないか)を把握することができます。ビジネス機能、ビジネスゴール、収益に対するIT投資の増加による影響を追跡し、価値を分析します。
- 8. 事業部門別のITコスト
- 9. 顧客満足度スコア
- 10. ビジネスイニシアチブ別のIT投資比率
指標8: 事業部門別のITコスト
この指標から得られる知見:
- 事業部門の利用状況がどの程度ITコストに影響を与えているか?
- 各事業部門の利用状況に応じたITコストはどれくらいか?
活用方法:
- 利用状況に応じたコストがどの程度か事業部門に示すことで需要の全体像を把握する
- 過大な支出、過小な支出を明らかにするために異常値を特定する
頻度:
- 月次+四半期
CIOの考察:
事業部門のIT需要に透明性を持たせることで、事業部門のITに対する考え方が変わります。ITコストの管理を事業部門に任せる場合も、全ITコストをCIOに集約する場合でも、ITコストを事業部門ごとに分類して把握する指標があると新たな知見が得られることになるでしょう。これによって事業部門と、IT投資の価値、需要、整合性について前向きに協議するうえでの叩き台となります。事業部門が自らのIT消費の説明責任を認識することで、大きな効果をもたらすことができます。
指標9: 事業部門向けサービスにおける顧客満足度
この指標から得られる知見:
- ITは事業部門にとって十分に役立つ存在になっているか?
- 社内顧客である事業部門はITに対してどのような認識を持っているか?
活用方法:
- ビジネスから見るITに対する問題を確認し、それを是正する
- 継続的に品質改善に取り組む文化をIT部門に根付かせる
頻度:
- 年次
活用のためのヒント:
顧客満足度のスコアは、インタビュー、アンケート、メール、フィードバックボタンなど、さまざまな方法で収集できます。いずれも、顧客満足度を把握するために試行錯誤されてきた手法です。Forresterは次のように述べています。「…短文式フォームの利用が最もシンプルかつ顧客志向の高いやり方法です。例えば、リクエスト対応直後のフィードバックメールや、インターネットやモバイルアプリにリンクされたフィードバックボタンを活用します。年に1~2回の頻度で、15~30問で構成されるCSATアンケートを実施すると、より詳細な情報が得られるでしょう」
管理エンゲージメントのレベルアップを図り、回答者のインセンティブを設定することで、回答率を最大限まで高めることできるとアナリストから提案されています。
指標10: ビジネスイニシアチブ別で見るIT投資の割合
この指標から得られる知見:
- ITプロジェクトは、事業上の優先事項に合致しているか?
- 戦略的なイニシアチブに十分に投資しているか?
活用方法:
- ITコスト戦略を、事業戦略に合わせる
- ビジネスゴールに貢献していないプロジェクトを特定する
頻度:
- 年次
例:
事業におけるイニシアチブには、テクノロジー投資が不可欠です。例えば、A社がプロジェクト成果の改善、モバイル機能の構築、拠点拡大を重視している場合、IT部門が適切な対象に投資し、こうしたイニシアチブのサポートを確実に果たせるよう、ITリーダーはこの指標を管理するべきです。事業戦略との整合性が明確になり、ビジネスゴールを達成するための投資領域が明らかになります。
IT指標における最大の課題は何か
質の悪いデータ
「十分なデータが揃っていない」。これはIT指標やKPIの導入を躊躇する際によく聞かれる言い訳です。正当性、整合性、一貫性、関連性はすべて、IT指標を設定し、分析と意思決定の促進を図る際に懸念されることです。質の悪いデータによる悪影響に対する懸念がある一方で、正しい指標の導入によって得られる最適化効果と価値だけでも、指標管理を始めるべき理由になります。
データは、利用しなければ改善されません。筋肉を強化するには日々運動で筋肉を使うことが必要であるように、データを改善するには実際にデータを使用する必要があります。データが完璧な状態になるまで待つべきではありません。データを活用しながら、完璧な状態に仕上げていくことが大切です。
言語の不一致
IT機能に共通言語となる可視化軸、タクソノミーを適用し、IT、財務、利用部門で共通認識を得ることは、IT指標をビジネスゴールと一致させる上で不可欠です。今日ある課題の1つは、多くの場合、CIOに提示されるITファイナンス指標が、総勘定元帳から取得された情報であるということです。説明責任を高めるには、ITチームがコストデータをIT部門と利用部門が理解できる言語に変換し、これをパフォーマンス向上へのモチベーションを高めるために使用することが重要です。理想としては、IT部門がこのデータを使用して投資に関してより適切な判断を行い、利用部門と協力して価値を効果的に伝達するとよいでしょう。
透明性にまつわる懸念
ITリーダーには「見せたくない秘密」があるものです。つまり、管理を改善すべき非効率な部分には光を当てたくないというわけです。一般的に、実状は2つの観点が考えられるでしょう。第1に、状況は当事者が思うほど悪くありません。ITリーダーは、疎データ(スパースデータ)環境においても日常的に合理的な判断を下しています。第2に、どのITにも知られたくない部分があります。弱点を突き止めて改善することは、ビジネスにとって望ましいことです。
分析のサイクル/かかる時間のラグ
データの新鮮さは、それ自体が重要な指標になります。ITチームが総勘定元帳(GL)を毎月(またそれ以上の頻度で)読み込んでコストを確認していれば、CIOは問題に発展する前に不具合を検出できる可能性が非常に高くなります。しかし残念なことに、指標は財務部門との調整が実施されるタイミングで評価されます。つまり、問題が急速に発展し、解決するにはすでに手遅れになっている段階でようやく評価されることが多いのが実情です。
クラウド導入が急速に進む中で、これは由々しき事態です。たった数日で、クラウド支出が制御不能になる恐れがあります。財務とのコスト調整まで三ヶ月待つことになると、予想外の支出が発生する可能性が高くなります。CIOは「クラウドに対して1万ドルの予算を計上したのに、今四半期の実際の支出は20万ドルに達している。どうして誰も検知できなかったのか?」と思うでしょう。
工数/時間のかかる作業
優れた指標を設定するには工数と時間がかかります。特に、ITコストや価値について正確な指標を計算するための専用ソフトウェアがない場合は、相当の負荷がかかります。多くの場合、スプレッドシートなどの汎用ツール、企業財務システム、BIシステムを使用して正確なIT指標を計算・報告しようとするものの、その算出や分析に苦労している、適切なアウトプットにするために多くの負荷がかかるという声をよく伺います。結局、新たな分析要求やビジネス変化スピードに対応できない不完全なモデルしか得られないことが多くなります。
ここにApptioはご支援できます。ApptioのSaaSベースのデータ分析アプリケーションの詳細をご確認ください。ITリーダーは、Apptioを利用して、テクノロジー投資の分析、最適化、計画、ベンチマーク比較を行うことができます。