FinOpsの実践でクラウドコストの約38%削減を達成した秘訣とは

“Cloudability の「プラン機能」を使用して、どの部署がどのような使い方をしているのかを明らかにし、ガバナンスの確保と説明責任の強化を図っています。Cloudability の情報は社内関係者との共通言語であり、チーム間の効果的なコミュニケーションにつながっています”

エグゼクティブサマリー

横河電機株式会社(以下、横河電機)におけるDXの取り組みは社員の生産性向上を目指す「Internal DX」と、顧客への提供価値を向上させる「External DX」に大別されます。DXによるクラウドの活用が進む中、クラウド使用料が飛躍的に増加していました。DXを推進しながらもクラウド利用を最適化し、投資から効果的にビジネス価値を生み出すため、横河電機はFinOpsを導入。実践のためのツールとしてApptio Cloudabilityを採用し、クラウドコスト最適化の一環として約38%の支出削減を実現しました。

会社概要

横河電機は1915年創業。計測、制御、情報技術を軸に製品、サービスを提供しています。60カ国に115の海外拠点、国内にも13の拠点を構え、グローバルにビジネスを展開しています。2023年度連結売上高は5,402億円に達し、海外売上高が全体の約7割を占めます。

主力事業である「制御事業」は、工場やプラントのライフサイクルにわたり、現場から経営レベルまでの顧客の価値を最大化する総合的ソリューションを提供しています。デジタル技術が著しい進歩を遂げ、ビジネス環境が大きく変化する中で、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援。自律化が進んだ産業界の未来に向けてIA2IA(Industrial Automation to Industrial Autonomy)の歩みを進めています。顧客に最適なソリューションをご提供するため、「エネルギー&サステナビリティ」「マテリアル」および「ライフ」の3つの業種別セグメントに区分し、事業を展開しています。

課題

横河電機のサービスポートフォリオは、経営システムと制御システムの統合を目的とした国際標準規格「ISA- 95」に倣い、レベル1から4までの4つに分かれます。従来は工場やプラントに設置するセンサーなどから得られるさまざまなデータを集め、それらを基に監視、制御を行うレベル1、2のビジネスが中心でした。

「工場がきちんと稼働するだけではなく、品質の良いものを効率良く安全に作れるようにすることが顧客から求められます」と話すのは、横河電機 デジタル戦略本部 EDX ビジネスプロモーションセンター センター長の森田 実氏です。ソフトウェアを活用した生産、運転、品質の管理や最適化はレベル3のビジネスに当てはまります。生産に関わるデータをERP などと連携させ、顧客企業の経営にも貢献できるようにしたり、サプライチェーンの最適化やエネルギー効率の向上などにも対処できるようにするのがレベル4のビジネスです。横河電機は現在、これらの領域に注力しています。

このレベル3、4にあたるビジネスでは、デジタルテクノロジーの進化に伴いクラウド化が進んでいます。お客様が管理する対象が単一の工場から複数の工場になったり、会社全体で対処したりするなどニーズが変化しているからです。また、工場内の設備をはじめ多種多様な情報ソースから収集されるデータをデータレイクに集めてAI で分析し、改善に結び付けることも求められます。これまで、レベル1や2のOT(Operational Technology)の領域は閉鎖環境でIT の世界からは独立していました。「今はレベル1から4まで、IT とOTの世界を統合的に見ていくことが主流になりつつあり、クラウド化が一層進んでいます。そこに私たち自身も注力する必要があるのです」と森田氏は言います。

クラウド活用の推進に伴って使用料は増加していき、いかにクラウドの利便性を得つつコストを最適化できるかが課題になってきました。横河電機では全社でのクラウド利用をある程度統制のとれた形で管理しています。Microsoft Azure(Azure)やAmazon Web Services(AWS)とはグローバルで一括契約し、後から各ビジネス部門などに費用を付け替えています。その一方で、実際にクラウドを利用している部門が、コストの内容を把握できていないことと、コストを意識できても最適化する手法が分からない点が課題でした。

ソリーション

「『コストの増加』という捉え方は適切ではないと考えています。無駄がなく効率的に使えているかが問題であり、『利用の最適化』が重要なのです」と指摘するのは、 Yokogawa Electric International、Digital Strategy HQ、Head of Global FinOps のSavant 氏です。

実は、クラウドコストを管理するツールは以前から導入されていました。しかし、利用はデジタル戦略本部インフラチームの一部のメンバーに限られていました。また横河電機ではマルチクラウドを採用しているため

「あらゆるクラウド環境を横串で統一的に見る必要もありました」とSavant 氏は言います。

横河電機は、クラウドに関わる一人ひとりにクラウド利用の最適化に対する認識を高めてもらうために、まずは各ビジネス部門にクラウドコストマネージャーを任命するなど、体制づくりから着手しました。その上でビジネス部門のアプリケーションオーナーやアプリケーションを構築するアーキテクトも理解しやすくコスト意識を持てるようにするための、新たなFinOpsソリューションを検討。いくつかのツールを比較した結果、使い勝手が良くグローバルで利用でき、他のツールとも連携しやすい点などを評価し、Cloudabilityを選定しました。2022年6月に導入し、同年8月からクラウドコストマネージャーに、オンボーディングのトレーニングを実施。Apptio チームからのサポートを受けながら、担当者が全員Cloudability を使えるようにしました。連携など技術面でのトラブルはあったものの、Apptio サポートチームの手厚い支援もあり、大事に至ることなくプロジェクトは進みました。

採用の決め手と導入効果

必要な情報を必要な人が必要なタイミングで取得

最適化の第一段階はまず「認識すること」です。最初はAzure、AWS の情報を単一ビューで構成し、それぞれを効率的に管理できるようにしました。

Savant 氏は、Cloudability について、「とてもユーザーフレンドリーなツールだ」と言います。ダッシュボードは必要な情報を必要な人に、必要なタイミングで提供でき、カスタマイズも容易です。「Cloudabilityは、コストが見えるだけでなく、ビジネス側のメンバー

も理解しやすいのがポイントです。各チームに対し、必要な情報だけを整理して提供できます。最適化のために何をすれば良いかも分かります」と強調、特にBusiness Mapping の機能は有効だと評価します。[画面]

Cloudability の情報を共通言語に
FinOps エコシステムが一体となり取り組みを推進

どんなに優れたツールでも、それだけでFinOps が実現できるわけではありません。「優れたツールと同様に必要不可欠なものが体制の整備、手順、ガバナンスです」とSavant 氏は話します。前述のとおり、まず「クラウドコストマネージャー」を任命し、コストに対する責任感を持ってもらうことが第一歩でした。とはいえクラウドコストマネージャーは本業に加えてコスト管理を担っているため、細かな指摘は重い負担となり、協力が得られなくなるような事態になりかねません。

そこで、ツールを使いつつ運用を定着させていく組織として、専任のFinOps チームが2022年11月に発足しました。FinOps チームは協働で対策を実施し、コスト最適化のための技術的なガイダンスをアプリケーションチームに提供します。実際にクラウドのリソースを管理し、サービスプロバイダーとの交渉なども行うクラウドインフラチーム、アプリケーションとサービスを管理するクラウドコストマネージャー、そしてFinOpsチームの3者でエコシステムを形成し、Cloudabilityの情報を共通言語に効果的なコミュニケーション、シームレスなコラボレーションを実施して戦略的な FinOps に取り組んでいます。[図]

[画面]UI/UXに優れたApptioダッシュボード

Cloudability を活用したFinOps の実践により約38%のコスト削減

現状では、四半期ごとにコストマネージャーとの定例会を開き、クラウド利用の最適化の取り組みを進めています。他にオンライン会議なども活用し、「手を挙げれば直ちにコミュニケーションをとれるようにしています」とSavant 氏。構成メンバーごとに週次または月次で会議を行うなど、密なコミュニケーションをとっています。

CIO に対しても、Cloudability のデータに基づいた KPI の進捗と予算管理のデータを月次で報告。Savant氏は「Cloudability を使用して、どの部署がどのような使い方をしているのか明らかにし、ガバナンスの確保と説明責任の強化を図っています」と言います。コスト効果も試算しており、2023年度は対前年度でクラウド使用料が上がった影響もあり、クラウドコストは39%増加しました。対して、コスト削減施策ごとの推定値を積み上げると削減効果は約38 %。

「Cloudability を活用してFinOps を実践していなければ、77%のコスト増となっていたかもしれません」と打ち明けます。

[図]横河電機におけるFinOpsエコシステム

今後の展望

クラウドの利用が今後も増える中、FinOps の取り組みを継続し、よりビジネスや経営に貢献していくことが求められます。Savant 氏は、「クラウドを多く利用すれば当然コストは上がりますが、ビジネスの創出に貢献できたのであれば、それ自体は良いことです。

『コストが最も良い指標ではない』ということがポイントです」と話し、クラウド利用の最適化の指標となるKPIと、その達成状況を経営層とわかりやすく共有できるダッシュボードに期待を寄せます。

また、森田氏は「横河電機が今後積み重ねていく経験を、他企業と情報共有する機会が持てれば」と語ります。その上で、これからクラウド利用の最適化に取り組む企業には、Cloudability という一つの効果的なツールの導入だけではなく、FinOps を実現するための経験値がある人や組織からアドバイスを受けることを推奨しています。
Yokogawa Electric International Pte Ltd, Digital Strategy HQ, Head Global FinOps, Savantraj CS 氏
横河電機株式会社デジタル戦略本部、EDXビジネスプロモーションセンターセンター長、森田 実氏

Additional Resources

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