エグゼクティブサマリー
成長と効率性に向けたユニリーバ社の戦略に、IT部門のケイパビリティを合わせていくために、IT部門は集中投資モデルから、テクノロジープラットフォームとTBM(Technology Business Management)の財務データをベースにした顧客中心のアプローチに移行しました。これにより、同社はITコストの規模を適切なものに是正し、正確なチャージバックモデルを策定しました。また、サポートするサービス数を半減させ、支出額を業界のベンチマークに近づけることができました。また、主要なプラットフォームに注力できるようになったため、同社はレガシーシステムをサンセットし、成長と効率性の向上を図っています。
ユニリーバ社の企業概要
ユニリーバ社は世界で最も認知された消費財企業の1つで、400以上の代表的なブランドを保有しています。毎日、25億人がユニリーバ社の製品を利用しています。同社は190か国以上で製品を販売し、従業員数は16万9,000人にのぼります。ユニリーバ社は持続可能な生活を当たり前にしていくことを社是としています。これがステークホルダー、顧客、消費者に対して長期的かつ持続可能な価値を生み出していく最善の方法であると同社では考えています。
ユニリーバ社について知るということは、そのブランドについて知るということです。リプトン、ダヴ、クノール、ウォールズ、ヘルマンズ、ドメストに加えて、その他約395種類のブランドが世界中に展開されています。ユニリーバ社は消費者向け商品の企業で、90か国以上で業務を展開(100か国以上に販売)しています。2016年の売上高は527億ユーロであり、16万9,000人の従業員を抱えています。顧客数は25億人にのぼりますが、これは地球上の人口の約3人に1人に相当します。
多くの企業がTBMやApptioを利用してIT支出を可視化しようとしているように、ユニリーバ社にとっても、巨大で広範囲に広がる組織を支えていくためのテクノロジーインフラの管理は、控えめに言っても課題でした。世界の様々な場所で事業を展開しているため、同社では複数の国を「クラスター」と呼ばれるグループに分けて管理しています。テクノロジーコストは、ユニリーバ社のテクノロジー、データ、サービス部門によって一元的に管理され、売上高ベースのアルゴリズムに従ってクラスターに配賦されています。
しかしながら、この一元化された仕組みは非効率で、MCO(複数か国組織)に対するITサービス提供コストを完全に網羅していませんでした。サービスやアプリケーションごとにコストを関連付けることが不可能であったためです。この状況を是正するために、ユニリーバ社はTBMを採用することにしました。
「ユニリーバ社でのITの管理方法について変革が必要なことを認識していました。変革には様々な側面がありました」とグローバルビジネスサービス部門のCFO、Gopalan Natarajan氏は述べています。「1つは当社のIT部門のケイパビリティを、成長と効率性に向けたユニリーバ社の戦略に合わせたものにすることです。2つ目は全社的にITのコストとメリットについての透明性と説明責任を確立させることです。コストを管理する方法、メリットを管理する方法、ITのコストについて全社的に説明責任を推進する方法について、一気通貫のコンセプトで進めることができるという点で、TBMが重要な役割を果たしました。3つ目の要素は、ITコストを売上高の2.2%から1.8%というベンチマークに引き下げ、2020年までに利益率20%を達成するという会社の目標達成に貢献することです」
ユニリーバ社にとってすべての条件を満たしていたのがTBMとApptioでした。
コストの透明性がITの新しいビジネスモデルを支える
「既存資産の償却という観点から、多大なレガシーコストを抱えていたこと、ビジネスにとってITコストが負担の大きいものになっていることは明らかでした」とNatarajan氏は述べています。「この状況を改善していくためには、同時に2~3件の施策を実行する必要がありました」
Natarajan氏と彼女のチームが最初に取り組んだのはビジネスモデルの策定でした。「IT組織を立ち上げたときには非常に一元化された組織でした。その後、時間の経過と共に、クラスターと呼ばれている様々な組織は、それぞれの組織の損益計算書に直接的な影響がないので、IT組織を無制限の『資金センター』とみなすようになりました。ITサービスの受益者に、ITのコストやITのメリットを認識してもらい、ITに対して全面的な説明責任を持ってもらうように、ビジネスモデルを変更する必要がありました」
「昨年インドで試験的に運用し、最終的には1,500万ユーロ近くを削減することができました」と、Natarajan氏は続けます。「成果は実際に銀行の現預金となりました。これは、様々なモバイルサービスの提供コストについて、正確で詳細な情報をApptioが提供してくれたからこそ実現できたことです」
新しいビジネスモデルは、社内の顧客とテクノロジープラットフォームを中心に据える
ビジネスモデルの再構築では、各国や各部門のテクノロジーの利用に対して正確に請求できるようにすることが目的でした。そのために、共通サービスの提供にあたっては、以前のようなプロジェクトベースの代わりに、テクノロジープラットフォームに基づいたアプローチが採用されました。
プラットフォームとは、セールスなどの主要な機能を支えるデジタル製品や情報システムを網羅する、グローバルに標準化されたテクノロジーセットです。プラットフォームを中心に据えることで、IT部門は、迅速にビジネスソリューションを策定して展開することができ、一方では、総所有コスト(TCO)を引き下げ、複雑さを低減し、拡張性を高め、イノベーションやデジタル化を迅速化しました。
「TBMは、各国のオペレーションにおいて、IT環境全体にわたるプラットフォームへの支出を透明化し、共通のリソースが特定のアプリケーションやサービスにどのように影響しているのかを把握できるようにしました」とITシェアードサービスのVP、José Silva氏は指摘しています。「ソリューションの本当の価値やコストを解明し、それを事業部門に対して事業部門の言葉で提示できるようになりました。事業部門は、グローバルおよびローカルで、ビジネスの成長を支援するソリューションを手に入れる一方で、運用コストを引き下げ、イノベーションを起こす能力を高めることができるようになりました」
ITコスト(インフラコスト、アプリケーション、サービスデスクなど)を単にファイナンスの観点からとらえることをやめて、ビジネスの観点からITコストを管理するようにしました。これは、IT部門にとってもMCO(複数か国組織)にとっても大きな文化の変革でした。チャレンジングな取り組みでしたが、この変革による投資対効果は、すぐにそして大きな形で現れました。
「2015年時点の状況を正直に振り返ると、約80%のITコストがブラックボックスの状態でした」とNatarajan氏は述べています。「最終的なサービスやアプリケーションのコストという観点では、コスト構造がどのようになっているか正確には把握していませんでした。ApptioとTBMを導入したおかげで、アプリケーションレベルやサービスレベルでのコストを正確に理解することができました。アプリケーションまたはサービスのコストを完全に把握できている割合は、20%から80%に高まりました。
「今では、すべての国にITサービスの利用量に応じた請求情報を送付できるようになり、IT部門が提供する価値について、事業部門と協業できるようになっています」
データ精度の向上がビジネス成果の向上につながる
正確なIT支出のデータを集約し、今までマッピングされていなかったコストをマッピングしていくのは、どの会社にとっても難しいものです。ユニリーバ社は、構成管理データベース(CMDB)の精度を高めることで、この問題の大半を解決しました。
「CMDBは存在していましたが、我々が求めるほどの正確さはありませんでした」とSilva氏は述べています。「よって、データのクリーンアップ作業から着手しました。様々なことを学ぶことができました。サーバーとデータベースの探索や、すべてのインフラ情報の収集を迅速化するために、自動化ツールを利用しました。最終的には、このサイクルの終了までに、それらのすべての情報をApptioにマッピングしました。そして、IT投資だけではなく、あらゆるものがどのように関連しているかについてもよく理解できるようになりました」
この取り組みを開始する前は、ITインフラのコストの30%しか、ITインフラを利用した事業部門やサービスにマッピングできませんでした。取り組みの基礎として、TBMを活用したことで、ユニリーバ社には非常に前向きな変化が現れています。
- サーバーとサービスのマッピングは30%向上
- データベースの把握状況は22%改善
- 95%以上のサーバーの稼働状況を把握
- 70%以上のサービスの総所有コスト(TCO)を可視化
「私の観点で最も大きな事項は、変更管理に関するものでした」と、変革担当ディレクターのMichael Whittaker氏は述べています。「CMDBデータが業務の中心になりました。CMDBデータは、インシデントのログデータを提供し、Apptioを利用した課金モデルへデータを提供し、また、IT環境を最新に保つために、ライフサイクル管理に関するデータを提供してくれます。データを利用する人に対して、正確なデータがもたらす価値を説明することが、TBMを活用した変革を成功させる秘訣でした。その一環として、SaaSに移行する方法、クラウドに移行する方法、そして、技術的な観点からそれらがどのようなインパクトをもたらすのかなどについて、包括的な視点が提供されました」
MCO(およびマーケティングなどのMCO内の個別機能)にとってのもう1つのメリットは、テクノロジーの選択肢をTCOの観点から眺めることができ、TCOとビジネスの成果が関連付けられていることでした。このような知見に基づいて、MCOは、テクノロジーを購入し、テクノロジーの利用停止時期に関する決定をスマートに下すことができます。
「私たちにとってこれも大きな変化でした」とSilva氏は述べています。「現在の役割の前、私はマーケティング部門にいましたが、マーケティング部門は将来に向けてイノベーションを起こすことに重点を置いて運営されていました。常にポートフォリオを分析し、2年後のことを考えていましたが、TCOなどは見たこともありませんでした」
「Apptioを導入したことで、機能、クラスター、プラットフォームに関する対話を俎上に載せることができるようになりました。今では、それぞれの選択肢の影響を確認できる機能が備わっており、バランスが取れた意思決定を下すために非常に役立っています」
透明性がプロジェクトへの注力と最適化されたサービスにつながる
このようなバランスの取れたデータに基づいたアプローチや、共通サービスの提供にプラットフォームを軸に据えるという取り組みにより、エンタープライズIT部門は、TBMの採用前には4,000あったサービスを、現在では2,000にまで半減させることができました。
「TBMの採用前は、意思決定の大半は異なるデータソースに基づいたものでした(データがない場合もありました)」とSilva氏は述べています。「今では、単一のデータソースを利用することに挑戦しています。プラットフォームとApptioのおかげで、このような大きな変革が可能になりました」
単一のデータソースからのコストデータにより、ユニリーバ社は保留中のプロジェクトの総数や、それらのプロジェクトがもたらすビジネス価値をより高度に管理できるようになりました。Apptioを利用する前には不可能なことでした。TBM導入前には、ユニリーバ社は毎年650件のプロジェクトにIT予算のほぼ半分を費やしていましたが、今では、その半分の予算をより少ないプロジェクトに振り向けています。
「2015年を振り返ると、プロジェクトは細分化され、ガバナンスが弱い状況でした」とNatarajan氏は指摘しています。「『低コストで、優先順位付けが正しく、かつ支払額に見合う価値を提供する組織へと、IT部門をどのように変革すべきか?』が以前の問いでした。よって、全く異なる枠組みが必要だったのです。適切な意思決定に向けて、社内のステークホルダーの参画を促進するために、透明性を伴った新しいITのガバナンスモデルが必要だったのです」
プラットフォームとApptioのおかげで、このような大きな変革が可能になりました
世界中の経営陣が、オンプレミスのテクノロジーをクラウドへ移行することを話し合っています。検討にあたっては、クラウドが信頼できるテクノロジーであるかどうかではなく、むしろクラウド移行がもたらすビジネス価値に焦点が置かれています。クラウドが必ずしも最善の選択肢でない場合もありますが、多くの場合、クラウドは最善の選択肢です。最善の選択肢かを見極めるためには、TCOとビジネス成果についての適切なデータが欠かせません。ユニリーバ社がTBMを利用しているのはまさにこの点です。
「Apptioは当社のクラウドへの移行を管理する上で欠かせません。かつて当社の戦略は自社のデータセンターに依存していました」とSilva氏は述べています。「大規模なデータセンターを2つ所有していますが、今後はそれらも償却し5,000万ユーロを削減する予定です。この取り組みは2か月前から着手していますが、Apptioからのデータを活用して推進しています」
TBMは旧態依然とした秩序を覆す
ユニリーバ社は常に未来を見据えています。一般的に大企業はなかなか変われないものですが、変革は待ったなしです。ユニリーバ社のおかれた状況がまさにこれに当てはまります。TBM導入前には、IT支出の大半について、ほとんど可視化されていませんでした。現在、同社はガバナンスが確立され、支出を申請した人、購入した人、メリットを享受した人を正しく把握しています。その成果はまさに変革に他なりません。
「TBMとは透明性の確保だけにとどまらない、という事実を見逃してはいけません」とWhitaker氏は述べています。「TBMは当社の働き方、文化、IT組織としての運営の仕方を根本から変える手段なのです」